福井総裁問題

福井日銀総裁村上ファンド出資問題が、一向に収束する気配を見せない。むしろマスコミは、ヒルズ族問題に連なる格好のゴシップネタとしてますます本質と関係ない報道合戦を繰り広げている。
この問題については、福井総裁に脇の甘さがあったことは否めない。しかし、法律上も内規上も違反のない人物を、違法ファンドに出資して膨大な利益を得たという感情論(しかも認識に多大な相違のある)だけで辞任を求めるのは行き過ぎではないのか。
擁護派の中に「福井総裁が優秀だからこの問題で辞めさせるのはもったいない」という意見がある(こうした意見がまた批判の対象になっている感あり)が、そんなことより、何らルール・手続き上の瑕疵のない人物を感情論で辞めさせるのは間違いだと正々堂々と主張すればいい。ホリえもんニッポン放送株を立会外で購入した際は、限りなく黒に近いグレーだったにも関わらず、(表面上は)ルールに抵触していないという一点で、世論は彼を批判しなかったんだから。それと何が違うと言うんだ?
それに、福井総裁を批判する意見の筋違い度合いの激しいこと。ざっと挙げても、こんな具合だ。
(1)違法ファンドに出資して膨大な利益を挙げるとはけしからん。
福井総裁が村上ファンドに出資したのは富士通総研理事長時代だし、その頃は村上ファンド物言う株主として、むしろ世論の後押しを受けていた面もあった。総裁自身が言う通り、ニッポン放送阪神電鉄の件で顕著なように、ファンドの性質が変化したため解約したという説明には一定の合理性があると思うが。それに、出資した時点で違法行為を行っていた訳ではないし。利得にしても、違法性はなくとも寄付するとまで言っているんだから、もういいじゃないかって感じだ。
(2)国民に低金利を強いておいて、自分は投資で利益を得るとはけしからん。
この意見は問題外。低金利政策は、三重野→速水と続く前総裁の失策の産物であり、福井総裁が作り出した訳じゃない。むしろ、政府の強硬な反発に対して金利引き上げを正々堂々と主張していたんだから、庶民の味方だろう。それに、「株でこんなに儲けた」と成功例だけを喧伝して投資を煽ってきたマスコミに、こんなことを言う資格は一切ない。
(3)金融政策の中立性を保つために、日銀総裁金融商品を持つべきではない。
この指摘だけは一面の真実がある。しかし、このタイミングでそんなことを言い出すなら、もっと早く日銀法の改正なり、内規の見直しを求めれば良かった訳で、それを個人批判の理由にするのは問題のすり替えだろう。確かに、「李下冠を正さず」という言葉があり、福井総裁の脇の甘さは批判されても仕方ない面もあるが、そこまで人間完璧ではいられないのではないか?
とにかく、福井総裁が世界的にも中央銀行総裁として評価の高い人物であることも確かであり、彼に対する信頼が現在の海外からの日本への投資を呼び込んでいる面すらある。そうした功績は一切無視し、下らない感情的な批判を垂れ流して、日銀総裁に馴染みなどない一般人の認識を操作しておきながら、「世論は『福井総裁は辞めるべきだ』との意見が過半数だ」などとしたり顔で紹介する番組には、本当に反吐が出る。こんな状態が続けば、いつまでたってもこの国は良くならないのではないかと、真剣に不安になってしまう。