薄型テレビ人気の嘘

昨日の新聞に、「東芝キヤノンが、今年6月以降に発売を予定していた『SED(表面電界ディスプレー)』を搭載したテレビの発売を1年以上延期する」という記事が掲載されていた。その理由の一つが「液晶、プラズマテレビの価格低下が予想より急ピッチで進行した」ことだと言う。
このこと自体は、至極当然な経営判断だと思う。現時点で赤字覚悟で参入しても、正直惨敗するだけだろう(もっとも、1年以上先に参入しても結果は一緒かもしれないが…)。
そのことよりも、この記事で気になったのは、「今年のサッカーワールドカップなどを契機に、一気に買い替えが進む可能性があり、延期はその需要を逃す可能性がある」という論調が目立ったことだ。個人的には、この部分には強い違和感を覚える。そんなにイベントを契機に買い替える人って多いのだろうか?
先日、我が家でもテレビを買い換えたことはダイアリーにも書いた。薄型テレビも検討したが、高価格がネックとなって、28型のブラウン管テレビを購入した。実際、周囲でも薄型テレビを買ったという人をほとんど聞かない。大半の人は「テレビは映れば良い」という考え方だった。
一方で、「液晶がブラウン管抜く 2005年テレビ出荷」なんて記事もあるので、薄型テレビは確かに売れているようだ(と言っても、家電量販店の店頭にほとんどブラウン管テレビを置いていないので、仕方なく買っている人も多いのではないかと推測するが)。そこで、実際どうなのか、少し検証してみた。
テレビ出荷台数の統計は、電子情報技術産業協会JEITA)が発表しており、それによると昨年1年間の出荷台数は、ブラウン管テレビが3,982千台(前年比-30.8%)、液晶テレビが4,217千台(同+58.3%)、プラズマが468千台(同+37.8%)と、液晶がブラウン管を上回り、昨対実績も薄型テレビの好調さが見て取れる。
しかし、ここで内訳を見るとちょっと妙なものが。液晶の内訳の中に、「4:3」1,438千台(同+5.2%)という項目がある。「4:3」すなわちワイド画面でない商品は、各メーカーとも20型以下しかない。つまり、液晶テレビの需要の1/3は、おそらく個室内のテレビということになる。更に、「16:9」のワイド画面についても、2,596千台(同+149.8%)のうち、30型以上は1,534千台(同+176.9%)と、出荷台数の4割は29型以下であることが分かる。
つまり、確かに薄型テレビは好調ではあるものの、その中身は、個室テレビ需要だったり、(メーカーが売りたい大画面型ではなく)価格がこなれてきた29型以下だったりが、結構な割合で含まれているということだ。このような中、本当にW杯程度でそんなに買い替え需要が盛り上がるのだろうか?
消費者も馬鹿ではない。たかがテレビに、「今」ウン十万円もかけなくとも、価格が下がってから買えば良いと、メーカーの加熱した競争を冷ややかに見ている様子が窺える。データの表向きの虚像に惑わされることなく、本質を見極めたいものだ。