メダル狂想曲

トリノオリンピックも最終盤に差し掛かって、フィギュアスケート女子でようやく荒川静香がメダルを獲得した。それも史上初の金なもんだから、もう例によって大騒ぎ、だ。
荒川の演技は素晴らしかったし、「浅田真央が出てれば金確実」みたいに言われていた中で、メダルを逃したら何言われているか分からないような状況で本当に良くやったと思う。アテネ野口みずきもそうだったが、こうした場面で実力を発揮する精神力は素直に賞賛に値すると思う。
それにしても、毎度のことながら、このメダル騒ぎは何なんだろう。まるで、メダルを獲得しないと入賞なんて価値なしと言わんばかりの勢いだ。そして、メダルを逃したらお決まりの「感動をありがとう」。いつから日本人は、スポーツ観戦の都度感動する国民になったのだろう? その割には、オリンピックや日本代表の試合以外はまったく見向きもしないけれど。
普段、その競技を見たこともないような人たちが、マスコミのいい加減な「メダル期待の」誰々選手というキャプションに踊らされてテレビ観戦する。そして、本来は実力通りの順位に終わったとしても「惨敗」で「プレッシャーに弱い選手」という感想だけを持って、また4年間は忘れ去る。
今回のオリンピックだって、スポーツイラストレイテッド誌の銅2つ(加藤条治荒川静香)予想は別にしても、有望種目はスピードスケートとフィギュアスケートしかないことは冷静に考えれば分かったことだ。上村愛子だって、セブンオーでW杯優勝したのは1シーズン前で、5位入賞は実力通りだろう。アルペン佐々木明だって(結果はまだだけど)W杯で1回久し振りに2位になったらいきなりメダル候補だ。普通に考えたら、1シーズンに1回あるかないかの滑りを見せないとメダルに届かないというのに… ジャンプ陣だって、やっとこさ飛車角落ちの日本でのW杯で岡部が表彰台に上がった位で、主役級が出場すれば表彰台が遠いことは自明の理だ。
この浮かれた雰囲気の主因は、明らかに民放のあのばかげた中継だろう。その競技と何の関係もない芸能人が出て来ては、的外れなコメントと馬鹿騒ぎを繰り返す。中継を見るのはお前ら馬鹿な芸能人が見たいのではなく、その競技が見たいからだという当たり前のことすら、制作者は気が付かないらしい。そんな国で、スポーツを見る目が肥える訳がない。
選手を取り巻く環境は劣悪だ。実業団はどんどん廃止され、スピードスケート4位の及川佑だって大学卒業で競技を止めようとしていた位だ。一部の人気競技以外は、遠征費もろくに出ない。頑張ってメダルを獲得しても、見返りは何もない。熱気が冷めたら過去の人だ。引退後に芸能人になりたがる選手が多いのも仕方ないだろう。
あんな無駄な中継のアホ芸能人にギャラ払う位なら、テレビ局はその分をJOCに寄付すればいい。選手が活躍すれば視聴率も取れるし。それに、あれだけ勝手に期待する視聴者も、皆で少しは資金支援すればいい。一人千円ずつでも百万人なら十億だ。そこまでしたら、ふがいない結果に終わった選手を批判する資格もできるというものだろう。
それより、もう少しマイナー競技でも、立派な結果を残した選手をもっと称えて欲しいものだ。個人的には、スキー距離女子団体スプリント8位入賞の福田・夏見組は、競技特性を考えれば、もっと評価されてもいいと思う(夏見円は、ルックス的にも個人的な今大会一押しだし)。
まあ、何はともあれ、荒川選手おめでとう。